2010年05月11日

魚の目の葬式 2

L33   その話しに耳を傾けた。が、私の知らない人について
L34  評していたので、聞いていながらも、二人の声はすぐに
L35  脳内から泡のようにぷつぷつと消えていった。
L36   記憶にとどめられない話しにすぐあきて、何も考えず、
L37  家までの道のりを眺めた。
L38
L39   玄関の前で雨を払うと、慌ただしい気持ちで、二階の
L40  自室へむかった。窮屈な黒服を着替え、ハンガーにかけ
L41  た。細かな水滴をハンカチで拭く。しわになるから…と
L42  いうよりは、スカートがあまり好きではない。
L43   喪服は持っていないので、唯一の黒のスーツを着ていっ
L44  た。大学の入学式もこれだったし、少し前の就活にもこ
L45  れで行った。黒色ということに甘え、葬儀にもこれだ。 
L46   いい加減、社会人になったら喪服を用意しなければな
L47  らないかと思いつつ、その気はほとんどない。
L48   一階に降りていくと、母は帰ってきた服装のまま台所
L49  で立ち働いている。
L50   雨の降る秋の夜は、なんとなく肌寒い。
L51   年中出しっぱなしの炬燵に火を入れあたった。手足が
L52  暖まってくると、今度は口寂しい。ピーナッツか、煎餅 
L53  でもあればな…と思いながら、テレビを見ていた。
L54   いれたてのお茶を置いて、隣りに座った母に、
L55  「私、足の裏にうおの目ができたみたい」と言った。
L56  「いつから?」
L57  「よくわかんないけど、たぶん一週間前くらいかな…」
L58  「あら、そう」
L59   湯のみを両手で包むようにしながら、母が、やだねぇ
L60  とつぶやいた。
L61  「なんで」
L62  「昔からいうんだよ、魚の目が出来ると身近で死人が出
L63  るって」
L64  「うそ、じゃぁ、五つあるよ」と、話しにのると、
L65  「それじゃあ、あと五人? 四人?」と肩をすぼめた。
L66  「あんたが七つの時、左足に大きな魚の目ができてね。
L67  そしてひいじいちゃんが亡くなったんだよ」と、本当に
L68  心配そうに話すので、
L69  「だって、迷信でしょ、そんなの。ほんとに四人も五人
L70  も死ぬわけないじゃない。うおの目で」
L71  「まぁそうだけど。昔から葬式の先触れみたいにいわれ
L72  てるのよ、魚の目は」
L73   ふーん、と気のない返事をすると、
L74  「あんたも気をつけなさい」と言った。
L75   何を気をつければいいんだか。それより私は、お菓子
L76  が食べたかった。腹が減った。

posted by にお とよむ at 17:20| 千葉 ☔| Comment(0) | 本編・魚の目の葬式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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